未来変える技術と発想力

 「ぐんまプログラミングアワード(GPA)2024」は、3部門15組が最終審査に挑んだ。エンターテインメント性の追求や社会課題解決に向けた発表が行われ、成績上位者に各部門賞や企業賞が贈られた。

【ジュニア部門】=MVP=
堀越優奈さん(太田南中2年)

◎指文字、手話アプリに
 手話と50音を指の動きで表す指文字を学べるアプリ「指文字・手話の学び道場」を制作した。部門賞に加えてMVP・総務大臣賞を獲得し、「協力してくれた先生や友人のおかげでここまで来られた」と話す。
 学校など特定の場面で話せなくなる「場面緘黙(かんもく)症」の友人と指文字でスムーズに会話したいという思いを抱いた。指の動きを見ながら学べ、手話と指文字が一体になったアプリを探しても見つからず、作ってみるのはどうかという母の言葉に背中を押された。
 アプリには、指の形を表示する「指文字帳」を搭載し、カメラで写した指の動きから文字が判定できる機能も付けた。手話は簡単なあいさつが学べ、今後は語彙(ごい)を増やす予定。
 小学2年以上で習う漢字は使わないなど幅広い世代が学びやすく、誰でも使えるようユニバーサルカラーの配色を参考にして画面の色合いを仕上げた。
 小学5年から楽しそうだと思ったプログラミングを学び始めた。博物館に通い詰めるほど古墳時代が好きで、将来は学芸員を目指している。「博物館で歴史を楽しく学べるゲームやコンテンツを作っていきたい」と笑顔で語る。

【アプリ部門】
チームマヴィカライ
宇野成亮さん、清田侑希さん新谷真雄さん(高崎高2年)

◎会話内容すぐ可視化
 リアルタイムで会話を可視化するアプリ「DiscScore」を開発した。複数人で議論する際、他の意見を否定する発言を繰り返したり、特定の人が主導したりして前向きな話し合いにならないことがある。そんな状況を解消し、ポジティブな雰囲気の中で創造的・建設的な議論に導くことを目指した。
 アプリを起動して会話を始めると、内容が表示される。全員で共有して議論の流れを自覚。発言時刻や総発話時間が表示されるため、話し過ぎを避け、発言の少ない人に意見を求めることができる。ネガティブな発言は図示され、前向きな議論に修正することも可能だ。会話データや発言内容、議論への寄与などを生成AIで評価、分析リポートも作成できる。
 自分たちの話し合いでもそうした場面に遭遇したことがあり、「技術で何とかしたい」と思ったのが開発のきっかけ。物理部に所属する3人は「毎年、先輩が活躍しているので、結果を残せて良かった」と口をそろえる。「これで完成だとは思っていない。まだまだ改良して、多くの人に使ってもらえるアプリにしたい」と表情を引き締め、技術向上を誓った。

【IoT部門】
吉ノ薗陽向さん(高崎高2年)

◎認知症恐れ早期発見
 独り暮らしの高齢者の認知症診断や見守り機能などを備えたデバイス「Dr .みまもりくん」を開発した。昨年のGPAでは2次審査で敗退。自然な日常会話から認知症の恐れを判定可能にするなど、1年かけて機能をブラッシュアップし、部門賞を射止めた。「昨年の悔しさをばねに、やり遂げた気持ちが大きい」と笑みがこぼれた。
 認知症の人の会話データの蓄積が少ないため、健常者の会話データの外れ値に着目。1万4千件以上の健常者のデータから独自のAIモデルを作成した。会話に異常があった場合に、年齢などの情報を加えて認知症を早期発見できる仕組みを整えた。
 高齢者の孤立を防ぐため、室温の上昇などの危険な状況を離れた家族に通話アプリのメッセージで知らせる見守り機能も搭載。普段の会話から関心がある項目を推定し、新たなコミュニティーを創出して社会参加を促す機能も設けた。
 開発のきっかけは、交流が少ないまま亡くなってしまった認知症の祖父への思い。「認知症は避けられない。実装を実現し、安心して認知症と共に生きていける社会をつくっていきたい」と力を込めた。

【ゲームプログラミングハッカソン】
ぐんまNo.1
加藤悠さん(農大二高中等部2年)、鈴木湊介さん(太田宝泉東小6年)、福島歩夢さん(前橋みずき中1年)、吉永裕輝さん(邑楽中野小6年)

◎他県の名産品避けゴールへ
 他県の名産品をよけながらゴールを目指すゲーム「やきまんレース」を作った。優勝が発表された瞬間、歓声を上げて喜んだ。
 迷路を上から見るイメージで制作した。途中にはぐるぐる回るギョーザの風車や上下に移動する納豆などの障害物がある。それらに当たると体力が減るが、焼きまんじゅうを取ると回復。空っ風が出現して進みにくくなる演出も入れた。
 4人はいずれも別々の学校に通い、今回が初対面。レゴをきっかけに打ち解けると、いろんなアイデアを出し合い、プログラミングや美術、音楽など役割分担して完成させた。
 チームでゲームを作るのは初めてという福島さんは「1人では思い付かないアイデアが出て面白かった」と話し、鈴木さんも「お互いにやれることをやった」と振り返った。
 来場者が実際にゲームを体験して投票したため、「投票してくれた人に感謝したい」と吉永さん。加藤さんは「達成感がある」と実感を込めた。

【クライム賞】
佐藤大典さん(開志専門職大4年)

 モバイルモーションキャプチャーを活用して、自作模型をリアルタイムで操作できるゲームを開発した。「プラモデルをアニメのように動かしてみたい」と考えたのがきっかけ。「簡単に手軽に使えること」を目指してモーションキャプチャーを利用したが、センサーの制御には苦労したという。
 「プラモデルの新しい楽しみ方を提供したい。これからも改良を続け、多くの人に楽しんでもらえるようにしたい」と笑顔で語った。

【コシダカホールディングス賞】
SRR
中野瑛太さん、天田ヒカリさん佐野結愛さん(前橋東高2年)

 交通事故死を減らし、危険運転ゼロを目標に、あおり運転防止IoT機器「ストップロードレージ(SRR)」を考案した。
 ミリ波レーダーで心拍・呼吸数を、カメラで運転中の表情を監視。心拍数の上昇や怒りの表情が見られる場合、危険運転と判断して音声で注意を促す。あおり運転に加え、飲酒や脇見、持病の発作による危険運転にも対応する。昨年に続き2度目の出場の3人は「来年こそMVPを狙いたい」と意気込んだ。

【システムクリエイターズ賞】
星野 大和
千葉吉平さん(新島学園中2年)

 泥棒に扮(ふん)した猫のキャラクターが宝物の下仁田ネギを手に入れるゲーム「ネギ泥棒」を開発。地元に近い下仁田町の特産品を広めたいと、誰でも楽しめるルール設定にした。
 躍動感ある動きを目指した他、追っ手の警察官を足止めしたり、スピードが上がったりするコンニャクに関連したアイテムも取り入れた。チーム名は強運の持ち主の友人の兄の名前から取った。「将来は保育士をしながら皆が楽しめるゲームも作りたい」と話す。

【第一生命保険賞】
塗本悠大さん(高崎高松中2年)

 アプリでリンゴなど果物の鮮度を判定する「食べごろチェッカー」を開発した。果物を選択すると、おいしさを見分けるポイントが表示される。選んだ果物をスマートフォンのカメラで撮影すると、AIがおいしさを判定する。
 実際に果物を購入して撮影しながら色や状態から果物を学習させた。鮮度の良い物を購入できることでフードロスなどにつなげたいという。「プログラミング関連の仕事で技術を生かしていきたい」と話す。

【高崎商科大学賞】
桐高物理部 いずねっこ
根子優太さん、泉瑛太さん(桐生高3年)

 アレルギーを持つ根子さんの3歳の妹が、文字が読めずにアレルギー物質を含んだ菓子を食べてしまった経験から、誰でも発症する可能性のある身近な食物アレルギーの危険性に着目した。
 アレルゲン認識装置を開発した。食品の原材料表示をカメラで認識したり、独自に開発したアレルゲンQRコードを読み取ったりして、音声で知らせる。2人は「スマホでも使えるようにしたい」と目標を語り、利便性を追求していく。

【日本生命保険賞】
フレンドミート
上田未来さん、大平百々香さん、中野結菜さん(名古屋文理大1年)

 友達と気軽に会うきっかけとなるアプリ「フレミー」を制作した。フレミーは、友達と直接会って協力することで餌やりなど飼育することができるペット。餌を与えずに49日たつと死んでしまう設定になっている。
 新型コロナウイルスの影響を大きく受けた世代でもあり、「高校の友達も大学の友達も大切にしたい」という思いを込めた。台風10号の影響で1人で発表に臨んだ大平さんは、中継を見守った2人と共に受賞を喜んだ。

【上毛新聞社賞】
しとらす ぴいち
上田桃さん(前橋元総社中3年)、上田柚さん(前橋元総社小6年)
 暑くて散歩に出かけられない祖母のために、運動や脳トレができるゲーム「みんなでGO!GO!健康ゲーム」を制作。時計の針と同じ腕の動きをする「とけいゲーム」、画面上から落ちる猫をつかまえる「ねこねこキャッチ」、指示通りにじゃんけんする「あとだしじゃんけん」の3種類を盛り込んだ。
 4年連続入賞で昨年はジュニア部門受賞の実力派姉妹。「プログラミングを続けていく」。2人のゲーム開発の意欲は尽きない。

◆審査総評◆

副知事 宇留賀敬一氏

◎レベルが非常に向上
 どの発表も甲乙付けがたく拮抗(きっこう)していて難しい審査だった。GPAのレベルは非常に上がってきている。皆さんは発表で仕上げてきたと思うが、これから実装に向けいいものにしてほしい。
 努力や貢献に対して賞金で報いているが、今後、開発を続けてもらうために、県や企業、個人から広く募った財団法人のような組織をつくり、開発費用の支援ができないかと考えている。
 デジタルを推進する本県として、プログラミングを続けられるよう、可能性にチャレンジできるよう応援できる新しい取り組みの議論を進めていきたい。

前橋工科大理事長日本通信社長 福田尚久氏

◎発展、社会実装が大切
 毎年レベルが上がっている。こんなに審査員泣かせの年はなく、どのチームが大賞を取ってもおかしくなかった。その上で、着眼点や技術的なアプローチのわずかな差で順位が決まった。
 今回は124組が応募したと聞いている。きょうステージに立てなかった参加者のアイデアの中にも宝の山がいっぱいある。受賞した皆さんはもちろん、参加者全員を誇りに思う。
 決してきょうがゴールではない。ここからどう発展させ、社会実装していくかが大切。これからの皆さんの活動を楽しみに、そして期待している。

◆審査員◆
宇留賀敬一副知事
金井修クライム社長
田中慎二アクセンチュア執行役員
腰高理志コシダカホールディングス執行役員
鈴木維一郎共同通信社将来技術開発室長
福田尚久前橋工科大理事長/日本通信社長
関口雅弘上毛新聞社社長

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上毛新聞 掲載日
2024/09/02

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