高い技術力 未来切り開く

 「ぐんまプログラミングアワード(GPA)2023」は、3部門の15組が最終審査に挑んだ。審査員が「昨年以上の高いレベル」と評した激戦の中、成績上位者に各部門賞や企業賞、副知事賞が贈られた。

【IoT部門】=MVP=
トマールくん
猪熊蓮音さん・大嶋輝希さん・湯沢拓哉さん(前橋高2年)

◎自転車事故AIで防止 
 全国ワーストの県内中高生の自転車事故を防ごうと、自転車のブレーキ補助システムを開発した。昨年は2次選考止まり。悔しさをばねに1年かけて実装にこぎ着け、新機能も考案。バージョンアップした作品で挑み、発表では実演を披露した。部門賞に加えてMVP・総務大臣賞を獲得した。
 自動ブレーキとドライブレコーダーを兼ね備えて安全性を高める。自転車前方のカメラが常時撮影し、AI(人工知能)がぶつかりそうな物体を検出して危険を察知。ブレーキが作動して事故を防ぐ仕組み。検知した物体との距離に応じてブレーキの強度を調整して危険を知らせる。万一事故が起きた場合は状況を撮影した画像が保存される。
 猪熊さんは中学2年の時、自転車同士の事故に遭った。自転車通学の同級生も多く、着想を得た。講評で「明確な目的にプログラミングの技術が生かされている」と高い評価を受けた。
 猪熊さんと大嶋さんのチームに1年前から湯沢さんが加わり、3人の得意分野が組み合わさって形になった。湯沢さんは「プログラミングは考えを形にできるのが面白くて夢中になれる」と語った。

【アプリケーション部門】
Englux
細田晃佑さん・黒沢駿さん・常見健太さん(高崎高2年)

◎英語学習スマホで楽々
 小中学生の英語嫌いが加速している現状から、誰もが能動的に楽しく学べるアプリケーション「English Lens(イングリッシュ レンズ)」を考案。英訳したい対象物をスマートフォンのカメラで読み取ると、対応する英単語や英文が自動かつ高精度で作成される。最新の生成AI(人工知能)を組み込んだ。
 学童施設の小学生にアプリを実際に使ってもらうと、「楽しく勉強できる」と好感触を得た。アプリを使って1時間に約150の英単語を学ぶ児童の前向きな姿も見られ、開発の励みになったという。
 昨年、3人は個々で大会にエントリーするも、受賞はかなわず。それぞれの知恵を結集する形で再挑戦し、つかみ取った栄冠に感無量な様子だった。リーダーの細田晃佑さんは「問題の本質を見つけることを常に心がけ、『次こそは』という思いでこれまで頑張ってきた」と振り返る。
 現在はアプリの本格的なリリースに向け、日本語訳機能の実装などアップデートを繰り返す。ゆくゆくは県が進める「非認知能力」を育てる教育にも携わり、子どもたちが主体的に楽しく学べる環境を整える青写真を描いている。

【ジュニア部門】
しとらす ぴいち
上田桃さん(前橋元総社中2年)上田柚さん(前橋元総社小5年)

◎百人一首を楽しく練習
 2年連続で企業賞を獲得してきた仲良し姉妹が、3度目の挑戦で念願の部門賞に輝いた。姉の桃さんは「今までの努力が報われて幸せ」と喜び、妹の柚さんは「桃ちゃんが私のために作ってくれたゲームで優勝できてうれしい」と声を弾ませた。
 百人一首の札をゲーム形式で覚えられる「れんしゅう!百人一首」を制作した。上の句をクリックすることで下の句が表示される「練習」や、札の組み合わせを3択クイズで当てる「腕試し」など複数のモードを用意。楽しみながら札を覚えられるように工夫を凝らした。
 ゲームのアイデアは「百人一首が強い高校3年の長女に勝ちたい」という柚さんのお願いがきっかけ。柚さんは「まだお姉ちゃんにはかなわないけど。ゲームでいっぱい札を覚えて勝てるようになりたい」と笑う。
 プレゼンでは「あいうえお作文」で魅力を伝えるなど、プログラミングが得意な桃さんとプレゼンが得意な柚さん、それぞれの強みを生かして審査員の心を引きつけた。
 プログラマーを夢見る2人は「来年もGPAに出場して、2連覇したい」と声をそろえた。

【副知事賞】
橘 祐貴さん(前橋高3年)
 「初心者でも簡単に使えるアプリが欲しい」。前橋高の将棋部で、こんな仲間の意見を聞いたのをきっかけに一から将棋AI(人工知能)を開発した。高い技術力が審査員の心をつかみ、この日に特別設けられた副知事賞に輝いた。
 1年半に及ぶ構想の成果。「まさかの受賞で驚いたが、自分がやってきたことが認められた」と喜びをかみしめた。

【クライム賞】
 長島 匠さん(千葉県・芝浦工業大柏高3年)
 「高校生活の集大成」と位置付け、2年かけて初心者でも利用しやすいプログラミング言語「Python(パイソン)」をブラウザーで使えるようにした。GIGAスクール構想で1人1台配布されたタブレット端末で、プログラミングしやすい環境を整備したいと思い立った。
 技術が難しく一度は挫折したが、「社会貢献したい」との思いで作り上げた。コンペの出場は初めて。「受賞は一生語り継げる出来事」と満足した。

【コシダカホールディングス賞】
Fore Runner
小野瑛太さん・小板橋悠斗さん・村田佳成琉さん(前橋高2年)
 表情や言葉から人の気持ちを読み取って、そのときにぴったりの音楽を流す「空気を読むAI(KI)」を考案した。人がAI(人工知能)に話しかける既存の形ではなく、KIが能動的に働きかけて音楽を再生する。
 AIが空気を読んだら面白いんじゃないか―。人とAIとの双方向の関係を実現させて「ツールではなく、パートナーにしたい」と声をそろえる。今後は「会話のバリエーションをさらに増やしたい」と探求は尽きない。

【ジンズ賞】
空署
深川優悟さん・薬師寺早矢斗さん(東京都立多摩科学技術高3年)
 指で空中にパスワードや署名を書くことでログインできる仕組み。新型コロナウイルス感染拡大の中で注目された、非接触生体認証の弱点である誤認証やなりすましを防ぐ手段として開発した。
 既存のシステムよりも低コストを実現。指だけでなく、肩や腕の動きを組み合わせて認証精度を高くした。
 副賞のウエアラブルデバイスを贈られた2人は「副賞を活用して新たなプログラムを作りたい」と受賞を喜んでいた。

【日本生命保険賞】
前東IoT 同好会~Season2~
天田ヒカリさん・佐野結愛さん・中野瑛太さん(前橋東高1年)
 赤ちゃんの泣き声から感情を識別するIoT端末を開発した。音楽を流してあやしたり、最適なアドバイスを保護者に通知したりして、夜泣きのケアにかかる負担を軽減したいとの思いを形にした。
 3人は理科部に所属し、プログラミングの初心者。高校生向けの連続講座「IoTスクール」に参加し、研さんを積んだ。「今回の開発が少子化の改善につながるといい。これからも部活でプログラミングの腕を磨きたい」と意気込んだ。

【JOETSU賞】
TEAM _3D
大久保 奏汰さん(高崎南八幡中1年)
 「大好きな迷路の中に入ってみたい」という思いから、迷路の世界を体感できる3Dメーカーを開発した。
 高崎市少年科学館でプログラミングを学んだ後、米マイクロソフト社の人気ゲーム「マインクラフト」のような世界を自分で作ろうと、独学でアプリを何本も制作している。今回は壁の色や制限時間の有無などを自由に設定できる作品を仕上げた。「敵とバトルができるような機能を付けたい」とさらなる進化を目指している。

【ペリテック賞】
チームコバキヨ
平形嶺さん・西山拓斗さん・市六稜真さん(高崎高1年)
 冷蔵庫の中身を把握してレシピを提供するツール「COOK×AEYE(クックバイエーアイ)」を開発した。初出場で受賞。西山さんは「率直にうれしい気持ちと、MVPを逃した悔しい気持ちがある」と振り返った。
 ドア開閉の瞬間を撮影し、画像データを物体検出できるサイトに送信、文字データ化。それを元にAI(人工知能)がレシピを提案する。西山さんは「来年はアプリケーション部門にも挑戦してみたい」と意欲を見せた。

【第一生命保険群馬支社賞】
オカピ
島田 実和さん(高崎佐野小6年)
 隕石(いんせき)が落ちた町を料理で復興させるゲーム「宇宙のお手伝い」を制作した。昨年は2次審査で落選し、念願の受賞。「すごくうれしい」と喜んだ。
 画像認識AI(人工知能)を使って料理を手伝い、集めたコインで建物を購入するなどして町を発展させていく。ゲームを通して料理を覚えることもできる。AIに学習させる写真を多数撮影することに苦労したといい、「来年はジュニア部門で優勝したい」と今後の目標を語った。

【上毛新聞社賞】
ZENMAI
堀内美涼さん(群馬大付属中3年)堀内涼真君(前橋桃井小5年)
 温泉や食事など本県の魅力を学べるすごろくゲームを制作。約160枚の手描きイラストを使用するなど、楽しく遊べるよう工夫した。
 第2回からGPAに参加している美涼さんは、ジュニア部門への出場は今年が最後。弟の涼真君と出場できる最初で最後の舞台での快挙に、「前から一緒に出たいと思っていたので、受賞できてうれしい」と笑顔を見せた。涼真君は「お姉ちゃんと一緒なら頑張れると思った」と喜んだ。

◆審査総評◆

副知事 宇留賀敬一氏

◎身近な問題に気付く力大切
 昨年よりも発表のレベルがかなり上がり、非常に審査が難しかった。
 県内各地でお祭りや花火大会が再開されている。日常的にコミュニケーションが取れるようになり、自分の身の回りや地域の課題に目を向ける機会が多くなってきた。
 さまざまな人と交流したり、自分の身近な問題に気付いたりする非認知能力と、プログラミング能力が相まって、未来を切り開いていく力になっていくのではないかと思う。
 素晴らしい成果を発揮した皆さんがさらに高いレベル、発想力で次回も発表する姿を見たい。

前橋工科大理事長日本通信社長 福田 尚久氏

◎発想、表現、技術バランス重要
 今年の審査基準は発想力、表現力、技術力で、3対3対4の比率で審査した。
 GPAはプログラミングの技術を競い合うのではなく、問題を見つけて共有し、その解決策を考えるもの。その三つのバランスが良かったチームが今回表彰された人たちだ。
 この力はわれわれが今の時代を生き抜いていく上で最も重要。社会に役立つ力の戦いだということを、友達、保護者、先生など多くの人によく理解してもらいたい。来年も素晴らしい作品のエントリーを期待している。全ての作品のレベルが高く、楽しませてもらった。

◎カーレース真剣勝負 eスポーツ交流戦
 eスポーツの輪を広げる「真夏のeスポーツ交流戦」(県eスポーツ連合、前橋商工会議所主催)がGPAに合わせて開かれ、初心者から経験者までが競技を楽しんだ。カーレースの「グランツーリスモ7」部門では、学生や社会人の26人がタイムを競い、会場を盛り上げた。
 プレーヤーはシートに座って、ハンドルやペダルを駆使して真剣勝負。ハンドルさばきが重要なコーナーでの順位交代やゴール直前のデッドヒートで、熱い実況とともに会場が沸いた。予選と準決勝を勝ち抜いた4人が競った決勝では、終始危なげなくリードを守った県職員の松本優一さん(30)が優勝した。
 初めてプレーした共愛学園前橋国際大3年の早田葵さん(20)は「負けず嫌いなので夢中になった」と笑顔。北原優香さん(20)は「一体感のある会場の雰囲気で楽しめた」と話した。
 この日は世界大会本戦につながる格闘バトル「鉄拳」の公認大会も開かれ、国内外のプロ選手らが熱戦を繰り広げた。

(上毛新聞掲載 2023/08/20)

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